“先輩、ホントにピンチなんです。明日数学があるんですけど、全然分からなくて・・・”
珍しく深雪が電話をかけてきたので何事かと思ったら、試験のこととは!かなり切羽詰まった声を出しているから、何とかしてあげたいところだけど、電話ではどうしようもない。とは言え、もう真夜中に近い時間なので、外に呼び出すわけにもいかない。
「もう少し早く言ってくれれば、何とかなったかもしれないのに・・・」
“でも、もう少し早かったら、先輩は電話に出てくれなかったでしょ?”
「・・・今日じゃなくて、もっと早く。どうしてこう土壇場で言うかな?」
“だって・・・、今日は家庭教師の先生が来てくださることになっていたから大丈夫だろう、って思っていたんですけど、先生の問題に全然答えられなかったんですよ”
おいおい、何のための家庭教師だ。・・・なんて言っている暇はない。何とかしなければ。でも電話で話すだけで理解してもらえるだろうか?
“あの・・・、今日はパパがいないので、抜け出すことはできます”
とは言え、どこで?宮殿に呼ぶわけにはいかないし、僕の実家も今からでは無理だなあ。
「だったら、君の家にお邪魔してもいいかな?それが一番手っ取り早いよね」
そうと決まれば、加藤には悪いけど送ってもらって、彼女の家に着いた。・・・勉強を教えるとは言え、嬉しい。いやいや、今は彼女が試験を無事に乗り切ることだけを考えてあげないと。
「すみません、出来が悪くて」
彼女は本当に困った様子で、僕のことはまるで意識していない。でも、いいんだ。彼女のためになれば。
「最初からこんな風に教えてくれれば解けたのに」
最初はどうなることかと思ったけれど、1時間もするとある程度の問題は解けるようになっていた。・・・朝霧よりは飲み込みが遙かに早い気がする。
「でも試験前日まで放っておくのはどうかと思うよ。これからはもっと早めに言ってね」
「すみません、このくらいできれば、中間よりは上がると思います。本当にありがとうございました」
おいおい、中間はいったい何点だったんだ・・・。でもまあ、わざわざ立ち上がって深々とお辞儀をしている姿はかわいいから、このくらいにしておいてあげるか。・・・本当はもっと教えてあげたいところだけど。
「あの・・・、どうお礼をさせてもらったらいいでしょうか?」
「試験の結果が出ないことには貢献できたかどうか分からないから、とりあえず今はキスをしてくれる?」
はい、分かりました。と、真面目な顔をして彼女は僕の口の端にゆっくりと触れた。・・・ロマンティックなムードでないときは、自然体でいてくれるのにな。