今は役に入り込まなければならないときだと思って、深雪とは特別な話はしていない。彼女のことで浮かれているわけにはいかない・・・それは仕事の面でも同じだ。
と思っていたら殿下からお誘いをいただき、結城と三人で夜景が綺麗なレストランへ出かけることになった。舞さんはお誘いしなくていいのですか?と殿下に伺ったら、今日は男同士の集まりだ、とおっしゃった。
「それで、結城には誕生日を祝ってくれる女性がいないわけ?」
「余計なお世話だって。俺には沢渡がいるからいいんだよ」
またそういうことを言う!・・・今も、まだ食事の席では不自由な僕のために、料理を一口サイズに切り分けてくれている。
「でも、沢渡くんには彼女がいるわけだし・・・。また今回も認めようとしないわけ?」
「ああ、そうだね。コイツが浮かれまくっているのが気に入らない。どこがそんなに気に入ったんだよ」
どこが・・・と言われても、よく分からない。演技がうまかったからというのは好きになった理由ではないと以前結論づけたはずだし、僕を見てキャーキャー言う子は苦手だったはずなのに深雪はその手のタイプだし・・・。
「答えられないというのは、本当に好きになっている証拠だよ」
殿下はいつも僕の味方をしてくださる。
「仕事には悪影響を及ぼしていないはずだよ。もちろん、演技のほうにも支障は来していない」
「前と何が違うんだよ」
「・・・前は、何だか息苦しい感じだったけど、今度は心が安らぐ感じがする」
「ウソつけ、前のときも最初は浮かれまくっていたくせに・・・いつまで続くやら」
結城がそこまで反対しているとは思わなかった。腕を折ったことに関しては怒られたけど、それ以外のことでは何も言われていなかったから、何だかショックだ。
「結城、もう少し温かく見守ってあげたら?結城も高校、大学のときはモテたと聞いているよ」
すると結城は否定せず顔を背けた・・・あ、照れてるでしょ。
「沢渡くん、結城のことは気にせず、恋愛を楽しんだほうがいいと思うよ。仕事に支障を来すようなことがあった場合には注意するけど、今の沢渡くんの課題は全般的に経験を積むことだからね、どんどん恋をしなさい。・・・そして結城も、どんどん恋をしたほうがいいんじゃない?」
「余計なお世話だ。お前たちは世話が焼けるから、俺にはそんな暇がない」
「そんなに強がらなくてもいいよ。寂しいときには・・・」
「沢渡を呼ぶ!」
・・・あの、そんなにはっきり言い切らないでくれませんか?