有紗さんが教えてくれた名前は某国の王女のもので、ことは難しくなりそうだった。彼女には僕も二度ほどお目にかかったことがあり、やや年上で気が強そうな印象を受けた。その彼女と祐一は、悪いけど合いそうにない。しかし、相手国のことを思うと断れない。そしてもう一つ、そうなると舞に断りを入れなくてはならなくなる。それとも・・・、
「一緒に来る?」
一応言ってはみたものの、舞は固まってしまって、すぐには返事をしてくれなかった。
「貴くんがそういうことに誘ってくれたのは初めてじゃない?・・・本当は内緒にしているだけで、たくさん女の人に会っているんでしょ」
「何の話?会っていたとしても仕事だから、全然心配はないよ。ただ今回は・・・」
「貴くんって、有紗さまのことが苦手なの?」
・・・図星だ。どうも彼女とはいい関係を築きにくい。それはお互いの立場が微妙だからというのがまず一つ・・・陛下の実娘でありながら、仕事の階級的には秘書だから仕官であるが、外交が絡んでくると王女としても振る舞われる。そして二つ目には、相性の問題。何というか、どうしても話が盛り上がらないのだ。仕事のことではもちろんよく話をするが、プライベートでは友達にしたくない。・・・そして沢渡くんのこともある。
もし万が一、VIPと祐一の話が盛り上がったら、残された者同士どうしたらいいのか分からないので、舞にもいてもらいたいというか何というか。でも、王女が単なるファンだということであれば、仕事に徹することも必要になってくる。・・・おそらく祐一が好きそうなタイプではないはず。
「私は行かないからね」
舞は特に感情を込めることなく言った。確かに、特に舞が来なければならないという理由はない。
「祐一くんと一緒に、合コンを楽しんできたら?」
合コン・・・ってそんな。僕は別にその場所に居合わせるだけで、どうこうするというわけではない。
「ゴメンって。今回は国の面目も保たないといけないから、許してほしい。その代わり、埋め合わせはきちんとするよ。今度舞が好きな画家が来国するそうだから、そのときに会わせてあげる」
「ホントに!」
さっきまでの嫌味な感じから一転、彼女は満面の笑みで僕の首にしがみついてきた。
「でも、私が一番嬉しいのは、貴くんと一緒にいられることよ」
仕事を優先させるとは伝えてあるが、それ以外では僕も同じ気持ちだ。