そしてついに、例の某VIPと祐一、そして有紗さんとで、食事をすることになった。
海の中の天然水族館とも言える迎賓館で、祐一は緊張を見せることなく、料理よりも会話を楽しんでいるようだった・・・しかし、相手は何故か、有紗さん。僕の印象では気が強く主導権を握りたがるはずだった王女は、一転、借りてきた猫のように、ただただ祐一を眺めては微笑むのみ。そこで有紗さんが気を利かせて代わりにあれこれ質問していたのだが、だんだんと二人の世界ができあがってしまい、僕は完全に蚊帳の外に追いやられてしまった。
“お話しにならなくてよろしいのですか?”
仕方なく、食事が終わるのと同時に、僕は王女をリビングへとお誘いした。
“いいんです。私には単に憧れの人だったんです。こんなことは初めてですわ”
そしてまたため息をつく様子を見ると、どうしたものかと考えざるを得なくなる。有紗さんだって、王女が祐一を好いていることは十分承知しているはずなのに、もう祐一しか目に入っていない。しかし一方の王女もまた、その光景から目を離さずにいる。
“有紗さんとは親しくされているのですか?”
“はい。恋人と別れて落ち込んでいましたから、これもよかったのではないでしょうか。これまでの経緯も聞いていましたので… 絶対そんなことはないはずだと思いますのに自分ばかり責めていたので、新しい恋をすることをお勧めしましたわ。・・・あら、殿下は前の恋人について何かご存じでいらしたのですか?”
ええ、まあ、少々。・・・そうか、有紗さんは自分を責めていたのか。でも次のターゲットがまた僕の友人だというのは気にかかる。・・・もしや、
“今回祐一に会いたかったのは、王女よりも有紗さんのほうだったのではありませんか?”
“そうかもしれませんね。私がファンであるのは事実ですし、お目にかかりたいとは話したのですが、お忙しいようなら結構ですと伝えましたのに・・・きっとそうなのですわ。先日議場でお見かけしたとかで、そのときに自覚したのでしょうね”
有紗さんは確信犯だったというわけか・・・。祐一には本当に付き合う気があるのだろうか?
“ミュージシャンと王女の恋愛というのも、なかなか素敵ではありませんか?ミュージシャンとしての祐一さんにも箔がつきますわ。ここは、お互いの友人同士、温かく見守ることにしませんか?”
いや、その・・・。友人の恋愛に口出しをするほど子どもではないけれど、有紗さんはあまり薦めたくない、と思う。