全国大会まであと五日。土日の合宿では厳しくみっちりと指導されて、とにかく演劇のことだけでいっぱいいっぱいだった。加えて先輩からも、全国大会が終わるまでは、演劇のことだけを考えようと言われている。でも夜には電話で話しているし、全国大会がうまくいけばデートに行こうと言われているし。
「今日も部活は大変だったの?」
とママが聞いてくる。我が家の食卓にはたいていパパの姿はなく、ママと二人きり。そのママは、昔はとても厳しかったけれど、私が高校に入ってからは何だか優しくなったような気がする。
「それはね、ママ以上に深雪が変わったからよ」
「え?そんなに変わった?」
するとママは大きく頷いた。
「まずは明るくなったし、急に大人びてきた気もするわ。演劇部様々という感じよ・・・特にあの沢渡先輩?」
ママは地区予選を見に来て、とてもビックリしたらしい。私が演技するところを見たのは初めてだったし、私たちのレベルがとても高いことも、時々は話していた先輩方がとてもカッコイイことも知らなかったみたいだし。
「でも兼古くんや清水さんはいいとして、沢渡くんって一体どこの人なの?」
・・・もう、そういう話はいいんだって。クリウスでもいつの間にか聞いてはいけないことになっているらしい・・・でも、みんなも気にしなくなっていってるみたいだけど。
「私に聞かれても、知らないから答えようがない」
「あなたたちはいつも何を話しているのよ。・・・毎日のように電話をかけてくるのは、その人なんでしょ?」
・・・え?バレてるの?・・・と焦っていたら、ママは呆れたようにため息をついた。
「気づかないわけないでしょ?いつもいつも携帯をそばに置いてにらめっこするなんてこと、今までなかったし、そうそう、この間夜に来たのもその人なんでしょ」
ギクッ。次の日何も言われなかったから、気づいていないんだと思ってた・・・。
「パパも知ってるの?」
「パパは気づかなかったようよ、ほら忙しい人だから」
・・・それって、単純に私に興味がないだけじゃないの?
「でもそのうち、パパにも紹介しなさい。ただ、いくらカッコよくても、庶民は認めないかもしれないわね」
何よその言い方!家柄だけで判断しようとする姿勢が許せない!・・・けど、まだパパに紹介できるほど親しい間柄なわけではないから、恥ずかしい。