本番は明後日。演技のことも気がかりだけど、今日になって急に、本番でどんなヘアースタイルをしようかと考え出してしまった。でも衣装は部長とも話し合ってすでに決めているので、それにふさわしい範囲にしないと。
「先輩は、どんなヘアースタイルが好きですか?」
“はあ?”
あまりに唐突すぎて失敗しちゃったみたい。だから改めてこれまでの経緯を説明する。
“それだったら、僕の好みを聞いたってダメだよ。早苗がどんなヘアースタイルを好むのかを考えないと”
それもそうでした。セリフから察すると、上品で、芯が強くて、でも優しい気持ちを持っている兄思いの女の子。
“僕は台本を最初に読んだとき、緩い巻き髪をしているイメージを抱いたんだよ。・・・それは深雪にピッタリだよね”
ホントですか!巻き髪は優しさを表しているというわけですね。すると、芯の強さを表すにはサイドの髪を上げてみるとか?まとめ髪にするのはやり過ぎかな?でも夏だから自然だと思う、けど、そうすると折角先輩がイメージ通りだと言ってくれた巻き髪が隠れちゃうし・・・ますます迷っちゃう。
“普段はどうやってヘアースタイルを決めるの?”
「それはその日の気分です。天気だったり、その日の行動予定だったり、洋服だったり・・・でも直感ですよ」
“そうなんだ。毎日ヘアースタイルが違うから、感心してるよ。またヘアアクセサリもかわいいのをつけてるよね”
そんなにちゃんと私のことを見てくれているとは思わなかったから、感激。
“でも僕は見る専門だから、明日、いくつかに絞って見せてよ。考えることは出来ないけど、選ぶことは出来るから”
ホントですか!・・・でも、出来ればお願いがあるんですけど。
“何?”
「部長や兼古先輩の前では恥ずかしいので、・・・先輩に選んでもらいたいんです」
・・・うわっ、言っちゃった。
“うん、いいよ。明日の練習が終わったら、音楽室に行こう。ピアノの最終打ち合わせもするけど、メインは深雪のヘアースタイル選びということで”
先輩が私のために・・・だったら私も頑張って、いろいろなアレンジを考えないと!
“でも張り切りすぎないで。深雪はどんなヘアースタイルでもかわいいから”
かぁ~。これが電話でよかった。私ったらどんな顔をしていることやら。