殿下へは、外国にいるのにホーンスタッドから結婚の儀に関する打ち合わせが追いかけてくる。移動中、殿下とあれこれお話しさせていただけると期待していた僕としては、それが残念でならない。しかしその分、
「沢渡くんは、代わりに議会のフォローをよろしくね」
とお願いされたので、僕はパソコンとにらめっこ・・・のはずが、電波状態がよくない。電車の行く手はトンネルに次ぐトンネル、となると、こちらで仕入れた新聞を読むしかない。
殿下が記事になっているものはすでに朝読んだから、ここは一つローカルニュースなどを・・・シマウマが大脱走!?いやいやそういうのじゃなくて、生活欄・・・日々の節約術とか、教育問題とか・・・。
「ねえ沢渡くん、沢渡くんなら、馬車でパレードがいい?それとも車でがいい?」
はい?いきなり何ですか?・・・あ、結婚の儀の後のパレードのことですね。
「いえ、僕はパレードなどしませんよ。殿下とは立場が違いますから」
例え僕が殿下と同じ年で結婚することになっても、まだ僕は皇太子にはなっていないと思う。
「ううん、そこまで厳密に考えなくていいよ。もし君が僕の立場だったら、ということ」
どうですかね・・・僕は車のほうが好きですね。
「でも、殿下には馬車がお似合いだと思いますよ。どうせなら思いっきり伝統にこだわってみるというのも面白いかもしれません」
う~ん、と殿下は考え込まれた。
「僕は馬車もいいと思うのだけど、馬車に乗るよりは御者を務めたいな・・・」
・・・あの、殿下。一体何のお話をなさっているのやら。
「舞さんとはご相談されたんですよね?」
「ううん、まだしていないよ。・・・全く僕たちは、一緒にいるとき何の話をしているのだろうね」
ああ、困った、困った、と、電話を取り出される殿下。しかし、すぐさまおかけになることはなく、新着メールをあれこれとご覧になっているご様子。
「ああ・・・、もう、またアイツか」
珍しく、でもあくまでも控えめに悪態をつかれた殿下は、竹内さんに明日のスケジュールをお聞きになり、
「ゴメン沢渡くん、明日の夜少し付き合って。・・・その代わり、深雪ちゃんに電話をかけるときには僕も参加するから」
いえいえ、そんなことをされると深雪が舞い上がってしまうので・・・とはいえ、殿下がそうおっしゃってくださるのならお願いしてみるのも面白いかも、と思ってしまうのだった。