8/8 (月) 23:30 理性と感情

しかし、今日の殿下は少なからず沈んでいらした。貿易に関することであれこれと難しいことを言ってくる人がいて、さすがの殿下もかなり気を揉まれたご様子。・・・いつも落ち着いていらっしゃるように見える殿下にも、喜怒哀楽や体調の善し悪しがあることは当たり前なのだけど、それがあまりに些細な変化なので、今回ご一緒させていただいてやっと気づけるようになった。今までは殿下に同行させていただくとなると、粗相がないようにと自分のことを考えるだけで精一杯だったのだけど、今回は殿下のことをよくよく観察させていただくことが出来た。

「沢渡くん、僕のことを自業自得だと思っていないよね?」

いえ、そんなことは・・・。今日が最後の夜。ホテルの自室に僕を招いてくださった殿下は、竹内さんが出された温かいハーブティーを、パジャマ姿で飲みながらくつろいでいらっしゃる。

「大丈夫だって、昨夜舞から、声が浮かれすぎだと怒られているから、その件はもう忘れて。それよりも深雪ちゃんは?・・・沢渡くんは深雪ちゃんのことを運命の相手だと思っている?」

・・・運命の相手?それは結婚する相手ということですか?

「・・・まだそこまでは分かりません。大切な人だということは分かっていますが、それは前回にも感じたことですし、何せまだデートも一回しかしていない間柄ですから、何とも言えません」

「そうだよね、まだ理性よりも感情が先走っている感じだよね」

ですからそれは!とは思ったものの、図星なので反論のしようがない。

「これは悪い意味で言っているわけではないよ。ときには直感が頼りになることもある」

すると殿下は姿勢を正されて、カップをテーブルに置かれた。

「知っての通り、僕と舞との関係は、これまでそれほど大きく扱われてこなかった。でも近い将来沢渡くんがその年で表舞台に立つとなると、私生活も含めてあらゆることが取り沙汰されることになるだろう。君たちはまだ若い、沢渡くんにはまず仕事をしっかりこなしてもらわなければならない。でもそんな中で彼女を守ってあげられるだけの覚悟が君にはあるのか、そして彼女はしばらく会えなくても耐えられるのか。もし中途半端な気持ちでいるならば、彼女を傷つけることになる前に別れた方がいい」

彼女を傷つける?・・・そんなことが起こり得る?

「近い将来とはいつ頃なのでしょうか?」

「本当に近いよ、早ければ来月とか。・・・帰国したら、二、三日中には、深雪ちゃん、兼古くん、清水さんに宮殿に来てもらおうと思っている。そのときに僕から更なる助言をするつもりだけど、深雪ちゃんとのことはよくよく考えておきなさい」

恋愛感情だけでは深雪と付き合えないということですか。まだどのくらい好きなのかも分からない状態なのに・・・。

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