初デートのときに来たプライベートビーチに、また二人で来ていた。
「凄い!花火を独り占めできますね!」
「二人占めの間違いだろ」
深雪を小突くと、彼女も笑って僕の腕にしがみついてくる。
「やっぱり、希さんの影響力って凄いんですね。パパがあんなに丁寧な口調で話しているのを聞いたのは、初めてかもしれません」
途中であからさまに態度を変えられるところを深雪に見せたくなかったので、あらかじめスーツで決めて、加藤を伴いお伺いした。それでも明らかに値踏みする価値すらないといった様子で、面倒臭そうな表情をされたのは事実だった・・・僕が身の上を語るまでは。
「でも、僕自身のことを見てくれたとは思えないね。所詮大人なんてそんなものだよ、若いってだけで未熟だと決めつける・・・うわ、ゴメン、深雪のお父さんなのに」
「え?希さんのこと、傷つけちゃいました?あれくらいじゃ、まだ丁寧とは言えないってことですか?」
・・・いやいや、そういう意味ではなくて、・・・もしかして本当に気づかなかった?お父さんが丁寧な口調で話したことだけで嬉しいのか。一体普段はどんな接し方なのだろう。
「ううん、いいんだ。付き合うことは認めてくれたわけだし、これからは堂々と迎えに行ける。・・・ただ、これから本当に忙しくなるから、おそらく新学期が始まっても、しばらくは学校に行けないと思うんだ。加えて、僕たちが付き合っていることは内緒にしなければならない。君には本当に辛い思いをさせてしまうけど、僕が好きなのは深雪だけだから。それだけは覚えておいて」
花火の音が大きいので、寄り添って話している僕たち。しばらくはこんなデートもままならなくなる。やっと彼女が素直に気持ちを話してくれるようになってきたのに、また遠慮するようになってしまうのか。会えない間に僕たちの距離が離れてしまうのではないかと心配だ。どうしたら彼女の気持ちをつなぎ止めておくことができる?
「深雪は、ちゃんと僕のことが好き?僕だけ空回りしてない?」
すると彼女は驚いたように振り返り、クスクスと笑い始めた。
「どうして希さんがそんな心配をするんですか。希さんほどの人が私なんかの気持ちに一喜一憂したりすることないですよ」
「そう?」
「そうですよ。・・・私のこと信じてくれないんですか?」
え?・・・こう不安になるのは、僕が深雪のことを信じていないから?
「大丈夫ですよ。希さんよりも素敵な人なんて知りません。・・・例えいたとしても、当分は他の人なんて目に入りませんって」
「ホント?」
「ホントですよ!ほらまた私のことを信じない・・・それ、希さんの悪い癖ですよ」
ああ・・・、どうして僕は、深雪のことに関しては弱気になってしまうのだろう。・・・本当だったら僕がリードしなければならないのに、情けない。
「デートは難しいかもしれないけど、部活では会えるし、電話もするから大丈夫だよね」
「もちろんです。私は希さんをテレビで見ることもできますしね」
・・・それはズルイな。
「代わりにキスして。頑張るから」
はい、と、無邪気に唇を近づけてきた深雪の腰をグッと抱き寄せ、大人のキスをする。・・・その先にも進みたいけれど、最初がいきなり砂浜というのは、さすがに嫌われる要因になるだろう。
・・・彼女には嫌われたくない。折角手に入れた相手を、みすみす手放したりなんかしない。