やはりこういうときに目聡いのは結城で、
「な~んでお前は、深雪ちゃんに会うといつもボロボロになるんだ?」
いきなり聞いてくるから、答えないわけにはいかなくなる。
「何で、深雪のことを信じられないのかな?」
「いきなり疑ってかかってるのか!それはダメだろ」
「違うよ。彼女が僕のことを好きでいてくれるってことが、未だに夢みたいで信じられないってこと」
はあ?と絶句してしまった結城。・・・やっぱり僕はおかしいのかな?しかし、しばらくすると結城は急に真面目な顔になって、僕を優しく抱きしめた。
「傷つくのが怖いんだな。これまで散々傷ついてきたから、全てを手に入れた後失うのが怖いんだよ。だからお前は信じようとしない」
・・・そうなのかな?
「そうなんだよ。深雪ちゃんがお前を好きなことくらい、お前だって十分分かってるはずだろ?・・・ただそれを認めようとしていないだけだ。だから次の段階に進んで、彼女の気持ちに応えてあげろよ。・・・情けない姿を見せるのは、俺だけにしろ」
あ、ああー、やっぱりそうだよね。僕は男でしかも年上なのに、頼りなさ過ぎる。彼女を守ってあげなければならないのに、逆に守られていて、しかも居心地がいいと思ってしまうなんて情けない。
「分かっているだろうが、お前にとって今が一番大事な時だ。悩みを抱えたままでもこなせるほど、この仕事は甘くない。・・・お前が政界で活躍する日を夢見て、俺は今までお前を育ててきたんだ。そんな俺の期待にも応えてくれよ。でも俺の教育がまだ足りないようなら、俺がお前の感情を支配する」
な、な・・・何、そのセリフは!・・・我が身に危険を感じる。
「俺はお前をなんとしてでも、非の打ち所がない財務長官として表舞台に出すつもりだ。少しでも心配や不安があるのなら、全部俺にぶつけろ。そんなことに時間を割いている暇はないぞ」
僕は反射的に結城の身体を押しのけた。・・・その通りだ、恋愛ボケしている場合じゃない。
「大丈夫。恋愛はプラスに作用しているよ。僕には財務長官を務め上げる自信がある」
やっとここまで来たのに、このチャンスをみすみす逃す真似なんかしたくない。
「そうか」
結城は僕の肩をポンと叩いて、ゆっくりと瞬きをした。
「その言葉が聞きたかった。ただ、これから毎晩お前の部屋で、一曲聴かせてほしい。よろしくな」
・・・それは、僕のコンディションを知るため、だよね。下手な演奏はできない・・・もしそんなことになったら、何をされるか。