それでも沢渡は、部活の後深雪ちゃんを連れ出して二人だけの時間を過ごしたようだった。そしてその後の深雪ちゃんは多少落ち着いたように・・・見えただけなのか、どうなのか。
などと部活の心配はつきないのだけど、俺たちはれっきとした受験生だ。・・・俺の将来は一体どうなるのか、一応は親に言われて法学部を受験先リストに挙げてはいるが、実際問題として、俺の今の学力ではとてもではないが合格することなどできないだろう。
残暑が厳しい夏の夕暮れ、何やら用事があるという美智とは別行動のため一人で街を歩いていると、女の人が近づいてきた。
「すみません、モデル事務所に勤めている柳沢と言います。お邪魔でなかったら少し時間をもらってもいいですか?」
・・・また来た。でも彼女は俺が誰なのかを知らないようだ。最近は名指しで来られることのほうが多いのに。
「すみません、友達と待ち合わせをしているので失礼します」
沢渡が有名になると、俺のところにもこういう人たちがたくさん来ることになるのだろうか。
「でも少しだけいいですか?あなたは容姿が優れているし、最初はバイト感覚でもいいので、モデルをやってみたらいいと思うんですけどね」
・・・しつこい。親父にバレたらどんなことになるか知ってて、そんなことを言ってるんですか?
「すみません、本当に迷惑なのでついてこないでください」
こういう時はさっさと逃げるに限る、が、
「あ、兼古くん、またお会いしましたね、こんにちは」
・・・ギクッ、この人は何度も僕に声をかけてきている、俳優事務所の女性だ。
「そこのお姉さん、こちらは兼古祐輔さんです。どなたかも存じ上げずに声をかけるなんて失礼ですよ。私共の方が先にコンタクトをとらせていただいているので、今度からは遠慮してくださいね」
・・・ちょっと待ってください、余計にややこしいことになっているのでは。それでも初めに声をかけてきた女性は、苦虫を噛み潰したような表情をしながらも去っていった。・・・かと言って、俺が礼を言う筋合いはない。
「兼古くんは、お父さんを超えたいとは思わないの?」
え?・・・いきなりの言葉に、どう返したらいいのか分からなくなってしまった。
「逃げているばかりではダメよ。人生についてきちんと考えたほうがいいわ」
余計なお世話ですよ。あなたに何が分かるって言うんですか!
「まだ若いから分からなくてもしょうがないけど、若い時はいつまでも続かないのよ。・・・では、連絡をお待ちしていますので」
・・・この人のほうが上手だ。このままではいけないことくらい分かっている・・・つもりだけど、俺はどうしたらいい?