8/28 (日) 16:00 ある出版社にて

「それじゃあ、9/1はクリウスでの取材を頼むよ」

今旬な高校生と言えば、クリウスの朝霧智史くんだ。先日のヴァイオリンコンクールで優勝して以来いろいろな媒体に出ているため、女子高校生をターゲットとした我が社の雑誌でも扱わないわけがない。しかし、首都圏のコアな読者からのリクエストはやや異なっている。

“朝霧さんの友人の、沢渡さんを取材してください”

私も会ったことがあるが、確かに沢渡くんは被写体としては最高だ。今や朝霧くんの知名度はうなぎ登りだけど、二人が一緒のところを見たら沢渡くんに目を奪われる人のほうが多いに違いない。

「ですが、あの沢渡くんが取材を受けてくれるでしょうか?友人思いで登下校も一緒なことが多いようですが、これまでも取材については頑なに拒否してきた子ですよ?いくら友人のためとは言え、一肌脱いでくれるとは考えにくいです」

他社の編集者からも聞いたことがある、取材は一切断っていると。

「バカ、それで編集者が務まるか!物でも何でも使って、彼の気を惹くように努力しろ!」

「もちろん、これまでも努力してきましたよ!写真にだって納めたことがあります。でもボディーガードに没収されたんですよ。・・・いくらクリウスとは言え、彼には何かあります」

どうして単なる高校生にボディーガードがついている?同じクリウスでも、大臣の息子である兼古くんは写真を撮らせてくれることだってあるのに。

「ねえねえ、ちょっと政治部の人にも見てもらおうよ、この映像」

急に、パソコンを見ていた同僚が言った。・・・演劇部の地区予選の映像を見ていたようだ。でも、彼らの上演作品ではなく、表彰式だ。

「見てよ、朝霧くんは楽士だから、殿下とは面識があるわけでしょ。ほら、殿下が気さくに話しかけていらっしゃる。だから、朝霧くんの友人である沢渡くんも、王宮と何か関係があるんじゃないの?」

・・・殿下が話しかけられる光景は、別に珍しくない。母校が優勝したのだから、ある意味当然ではないだろうか。

それでも、物は試しよ、と、慣れないフロアに行き、彼女の知り合いだという記者に見てもらう。

「そうか、クリウスに行かれていたのか・・・」

映像に沢渡くんが登場するなり、彼のことを知っているかのような口ぶりで話し始めた。

「それで、彼は一体何者なの?」

すると彼は辺りをキョロキョロ見渡し、小声で話した。

「政府の高官だよ。ただ、公表するなとの厳しいお達しが出ているから、絶対に記事にしたりするな。ウチの社にペナルティが課せられる」

え?でもまだ高校生でしょ?どういうこと?

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