起きたら真夜中だった。
「お目覚めですか?」
・・・ああ、まだ医療室だったんだ。あれから人間ドックはどうなったのかと聞いてみると、寝ている間にいくつかの検査をしたが、少し残ってしまったと聞いたので、とりあえず空腹を満たしたあと受けておいた。
部屋に帰ると、舞がベッドで寝ていた。しかし今日はこれ以上眠れそうにない。仕方がないのでおでこにキスをして、リビングへと戻る。・・・貴重なオフなのに、僕は何をやっているんだか。
反省した僕は、仕官と一緒に朝食を作って、舞を起こしに行った。
「おはよう。・・・貴くん大丈夫なの?」
「ゴメン、心配かけて。ちょっと疲れていたんだよ。でももう大丈夫だから」
昼間はまだまだ暑さが残っているので、舞台の昼公演を観に行く。
「今月のゲストは沢渡長官ですか?それとも舞さんですか?」
劇場のロビーである女性からいきなり声をかけられた。・・・ああ、『H-K Time』のことですね。
「今のところ沢渡くんを予定しています。彼女のことはもう少し独り占めにしておきたいので」
すると、周囲から歓声と拍手が沸き上がり、その隙を狙って舞は、「また調子のいいことを言って」とチャチャを入れてきた。・・・僕としては真面目に答えたつもりだったのだけど、どうして冗談にしか受け取ってくれない?
「それは、貴くんがいつも真面目じゃないからでしょ?」
喜劇を観たのがいけなかったのか、夕食の時もまだ、舞はそのテンションを引きずったままだった。
「僕の言葉ってそんなに信用できない?」
「ううん、ちゃんと分かってるわ。貴くんはしんみりするのが嫌なんでしょ?・・・高校の頃からずっとそう。お母さまが亡くなられたことで同情されたくないから、いつも明るく振る舞ってて、そのうちそれが当たり前のことになってしまっているのよ。自分が傷つくのが嫌だから、本音を言わない。強がっていないと、宮殿での大変な生活がそのまま重くのしかかってきそうな気がする。違う?」
舞のお妃教育はすこぶる順調だったし、彼女は宮殿の中の人たちともうまくやってくれている。その間僕はと言えば、彼女には普段通りの接し方をしていただけだ。僕は僕の仕事をこなして、お妃教育の大変さをねぎらうわけでもなく、彼女の話を聞いていただけ。・・・そこまで分かっていたから、僕のことを咎めなかったのか。
「別にいいのよ、貴くんのほうが私の何倍も大変なわけだし、私もその、貴くんの秘訣をありがたく真似させていただくことにしたから。お互い軽口を叩き合っていましょうよ、私は別に構わないわ」
・・・またこんなことを言わせてしまった。僕はちっとも成長できていない。