深雪が吹っ切れたような気がした。
「光と影に関しては、考えすぎないことにしました。役作りについて考えれば考えるほど、役と私との境目が分からなくなっちゃうんですよね。舞台に立てば役に入り込める自信はありますし、先輩方から、演技については特にダメ出しをされることもなかったわけですから、このままでいいんじゃないかと思いまして・・・」
うん、それでいいと思う。殿下が具体的になんてアドバイスされたのかまでは聞いていないけど、深雪はいたく感激していた。・・・その一方で、殿下がどことなく元気なさげな様子になられているのが気になっているのだけど。
そのとき、深雪が僕の右手に左手を重ねてきた。
「手をつなぐくらいいいですよね?」
それはもちろん!・・・僕たちは宿泊施設を抜けて夜の森を散歩中である。当初は、深雪の役作りのために距離を置いたほうがいいだろうと思っていたのだけど、今日の仕上がりを見たら大丈夫だと思った。
「深雪は頑張ってるよ。本番が楽しみだ」
「うまくいったら、キスしてくれますか?」
・・・うっ、ホントはおまじない、とか何とか言ってすでにキスしそうになっていたのだけど、分かったよ、うまくいったらね。・・・ああ、いつになったら彼女を抱けるのか?文化祭の公演には、僕や朝霧目当てで学外からも多くの人が訪れる予定だから、それまでは彼女を動揺させたくない。・・・貴重な夜なのに。・・・折角二人きりなのに。・・・このままこっそり学外に抜け出すことも可能なのに。
「文化祭が終わったらしばらく学校に来ない、なんてことはないですよね?」
「う~ん、何とも言えないね。部活のために仕事を抑えてもらっていたから忙しくなりそうだけど、生徒会長をやらないか?と言われていることとか、いろいろ学校側と話さなければならないこともあるから、まだ分からない」
「生徒会長ですか!それいいですね!あと演劇部の部長とかも!?」
「・・・あのね、そんなに何でもかんでもできないって。部長の件は村野さんで決まり。でも生徒会長の件は正直言って悩んでいるよ。兼古先輩からはぜひともって言われたんだけど、そんなにしょっちゅう学校に来られるわけではなさそうだから」
「・・・生徒会長になったら、学校に来てくれますか?」
どうかな~、まだ分からないよ。
「雑用に時間をとられないほうが、二人の時間が増えるかもしれないよ」
「そうですよね・・・。もっと一緒にいたいです・・・」
「僕も・・・」
でも、文化祭が終わるまではハグだけで我慢。