石井くんの言葉を彼に伝えると、ちょっと大袈裟だけど、あながち間違ってない、と言われた。
“でもそれは、深雪のことだから、という理由からだけじゃなくて、誰かをターゲットにした性質の悪い中傷をなくしたいからなんだ。僕も去年、素性を明かさなかったことでいろいろな面倒に巻き込まれた･･･まあ、明かさなかった僕のほうにも非があったけどね。なのに、僕が財務長官に就任したら、手のひらを返すように僕のことをチヤホヤしてくるんだよ、そういうのってバカバカしくない？そういう人間は信用できないし、社会でも通用しないだろう。だから、生徒会長の地位も利用させてもらって、ビシッとしつけ直したいんだ”
･･･そんなことまで考えてたんだ。
“でももちろん、石井が言うように厄介事はできるだけ避けたい。だから、本意ではないけど誰とでも穏やかに接するようにはしてる”
学校で会うとなると、いろんなことを考えなきゃいけなくて大変だな～。
「今度はいつ会えるかな？学校以外で会いたいよ」
“そうだよな･･･学校以外でなら、いくらでも抱きしめられるもんな。そうそう、この間はゴメンな、学校なのにハグなんかしたりして。どうしても我慢できなかった”
周囲の目が気になって困ったけど、ハグだけじゃなくてもっとぎゅっと抱きしめてもらいたくなったことも困った。
“土曜の夜に迎えに行くよ。ご飯を食べに行こう”
･･･夜ってことは。
“外泊できそう？”
「･･･無理」
高校生のうちは、例え相手が誰でも、男とは外泊するなと言われている。
“深雪、一つ覚えておいてほしいんだけど、学校にいるとき必要以上におどおどしちゃいけないよ。よからぬ輩はそういうところにつけ込むんだ。でもだからと言って、開き直るのもおかしい。あくまでも自然体で。みんなに彼氏がいるように、私にも普通に彼氏がいるってくらいに思ってほしい。僕たちが変に意識すると、周りだってそれに対抗しようとする。でも、僕たちが普通にしていれば、周りだってそれに慣れてくれるよ。次からは、僕が学校に行ったときは学食でご飯を食べよう･･･みんながしているのと同じようにね”
普通に、あくまでも普通に･･･。普通じゃない彼が言うのも変な感じがするけど、みんなだって廊下で抱き合ったりしないもんね。節度のある付き合い方を、か。