昨日は兄貴の誕生日だったが、実家には帰れなかったので、プレゼントを贈っておいた。・・・財務長官に就任してから給料が上がったので、贈り物がしやすくなった。これからは学費も自分で払おうと思っている。
そして今ここには、先月誕生日を迎えた演奏家がいる。
「今回は壊滅的だよ。暗記モノにもほとんど手がつけられていないから、どこで点を稼ごうかな?」
朝霧も、コンクールで優勝して以来あまり学校に行けていないらしい。今までは朝霧に授業ノートをとっておくように頼んでいたんだけど、今回は村野さんから見せてもらった。
「仕官から勉強を教わってたんじゃないのかよ。いくらあちこち飛び回っていたからって、移動時間には勉強できたはずだろ」
「そんな余裕ないって。演奏とかインタビューとかのイメージトレーニングをしなければならなかったし・・・」
「また言い訳して・・・。でも試験までにはまだ時間があるし、寝ないでやれば何とかなるだろ。・・・ほらほら、付き合ってやるから」
しょうがないな、もう。折角念願叶って世間にも名が知られるヴァイオリニストになれたというのに、そのおかげで成績が下がりました、なんてことになったら目も当てられないよ。
「ねえねえ、この間から思っていたんだけど、深雪ちゃんと付き合うようになってから言葉遣いが汚くなったよね。結城さんみたいな話し方になってるよ」
うっ・・・。実は僕も気になっている。深雪と一緒にいるとどうも上から目線になってしまうみたいで、気がつくと自分のことを俺と呼んでいたり、命令口調になっていたりして困る。もちろん僕のほうが先輩だから、何かにつけて教えてあげることが多いのは事実だけど、僕は深雪のおかげで感情を解放することができたのだから、もっと敬意を表してもいいはずだ。・・・その調子が朝霧に対しても出ていたわけか。
「ゴメン、不愉快だった?でも朝霧があまりに勉強をサボっていたからつい」
言うと朝霧は苦笑した。
「僕としては、君が自分に自信を持てるようになったということかな?って解釈してた。財務長官にまでなる人にしては少々謙遜しすぎじゃないかと思っていたくらいだから、別に悪くないよ。それに僕は別にそんな言葉遣いをされても腹は立たない。だって、ヴァイオリン以外で君に敵う分野がないからね。・・・でも他の人にはあまり使わないほうがいいんじゃないかな?」
そうだよね。財務長官になった途端にそれか、なんて思われたくない。
「そういうことなら、今日はビシビシ行かせてもらうからな」