「昨日は助かった、どころじゃなく、大好評だったみたいだな。俺も見たかった」
午後、特別に担任が試験監督を務めてくれて、僕は別室でテストを受けた。政治経済の試験を免除してくれただけでなく、他の教科も、時間内に終わったらすぐに提出して次の教科に取りかからせてくるという優遇付き。もちろん、今回から手加減なし、だ。
「ダメですよ。僕は教員免許を持っていませんから、授業はできません」
「それはそうなんだけど、これからも協力してくれよ。時々は今回みたいな質問タイムを設けさせてもらってもいいかな?」
「僕としても面白かったのでこれからもやってみたいですけど、そうなると、ウチのクラスだけ贔屓していることになりませんか?」
「それもそうだよな・・・さすが財務長官は俺なんかより思慮深い」
何を言ってるんですか。あの、これを早く解いてしまいたいので、話しかけないでくださいよ。
「悪かった、邪魔したな。どんどん解いてくれ」
全科目の半分を終えて宮殿に戻り仕事。そして夜はまた朝霧の勉強に付き合い、いい感じになったところでヴァイオリンソナタのリハーサルもする。・・・披露宴のための練習ではあるのだけど、勉強で萎えてしまった朝霧の心を復活させるには、ヴァイオリンを弾かせるしかない。
「ここの部分だけど、もう少しテンポアップしてくれる?僕の演奏にしっかりついてきて」
はい了解。・・・ほ~ら、朝霧の目が輝いてきた。
朝霧はコンクールで優勝してから、ますます演奏に磨きがかかってきた。リサイタルは好評のうちにひとまず終えて、来月にはアルバムのレコーディングに取りかかることになっているそうだ。ただ、今後のことについては悩んでいることもあるらしい。
コンクールで優勝したものの、朝霧の今の立場は楽士だ。だから、王宮行事で演奏する仕事は、引き続き優先させなければならない。でもソロリサイタルが気持ちよくないはずはなく、独立するべきか否かで、先生にも相談を持ちかけているみたいだ。
「楽士の仕事は少々退屈だけど、宮殿での生活を保障してくれるし、君ともすぐ会える。それに比べて独立するとなると、生活のことが一番気にかかるよね」
それは芸術家の宿命だろう。でも僕にできることは相談に乗ってあげることだけで、最終的に決めるのは朝霧自身だ。彼はどの道を選ぶのか。