今日はテレビ番組の収録とCM&ポスター撮影のため、とあるスタジオに来ている。入ってしばらく歩くなり、今人気の女性アーティストと会い、握手を求められた。
「お会いできて光栄です。テレビで見るより素敵ですね」
いえいえ、それはこっちのセリフですよ。・・・純粋にかわいい。
「あの、よろしかったら、これ、来月リリースするアルバムなので聴いてください」
え~、そんな特典まで!・・・クラスの男子に言ったら、大変なことになりそうだな。でもでも、僕は財務長官!これくらいのことで動じていてはいけない。
「ありがとうございます。ぜひ聴かせていただきます」
ただし、微笑みは忘れない・・・。
テレビ番組にはこれまでにもいくつか出演したけど、CMは初めて。営利ではなく政府公報として国民のみなさんへのメッセージを発信するもので、殿下もこれまでに何パターンかに出演されている。僕が引き受けるにあたって提案したのは、いじめに対するメッセージ。僕自身、これまでに誹謗中傷で苦しんできたから、人それぞれが認め会えるような社会にしたいと思った。
「準備は万端か?」
初めてだからか、結城がやってきた。
「大丈夫だよ。折角見に来てくれても、すぐ終わっちゃうよ」
CM自体は、いろんな人が話をしたり遊んだりと、コミュニケーションをとっているシーンが流れたあとで僕が映し出されて、胸に当てた両手を前に差し出す、ただ、それだけだ。
「手を差し出す相手を思い浮かべやすいほうがいいかと思って」
・・・どうして結城のことを思ってそうしなきゃいけないんだよ。僕は演劇部員ですよ?
そして監督と少々打ち合わせをして、リハーサルを重ねたあと、本番。
・・・この思いがみんなに届くように。みんなが幸せになれるように。
撮影は無事に終了。結城と一緒にスタジオを出ると、今度は有名な役者さんをお見かけした。僕のほうが断然年下なので、立ち止まって挨拶をさせていただく。
「我が国の文化活動が盛んになるよう、国民の最低限の生活は保証してください」
「貴重なご意見をありがとうございました。ご期待に添えるよう、尽力させていただきます」
・・・身が引き締まる思いがした。