仕事が終わって深雪を迎えに行くと、打って変わって笑顔になっていた。
「朝霧先輩と、殿下と、舞さんと、有紗さんがお見舞いに来てくださったの。仲野さんもヘアメイクのお話をたくさん聞かせてくださって・・・」
有紗さん?何故彼女が深雪の見舞いに来るんだ?居ても立ってもいられなくなった僕は、深雪をそのまま自室に連れてきた。その様子からすると特に何かを言われたわけではなさそうだったし、ここで敢えて突っ込んで聞くのもおかしいので、そのことには触れずに、ただただ優しくしようと決めた。ドクターも、これ以上の外科的処置は必要ないとおっしゃってくださったし。
「ゴメンな、夕食を一人で取らせたりして」
「ううん、全然問題なかったよ。だって、殿下の結婚の儀がホントにすぐそこまで迫ってるんだもん、素人にだって忙しいことはよく分かる。・・・そんなときに殿下と舞さんにお会いできるなんて幸せ。特に舞さんは、殿下の高校時代のお話をあれこれ聞かせてくださったのよ、ホントに楽しかった」
・・・林田さんのことは全く口から出てこなかった。担任の話ではしばらく停学になるだろうとのことだったけど、その期間が終わればまた顔を合わせることになる。・・・でも今は、それよりも楽しい思い出をたくさん作ってあげて、林田さんのことを考えるだけの余裕をなくしてあげるほうがいいに違いない。
「深雪、今夜はのんびりしていってくれ。自分の部屋みたいにくつろいでくれていいから。・・・さすがに今夜は何もしないよ。ゆっくりお風呂に入っておいで」
うん、と、深雪は少し顔を赤らめて、バスルームへと消えて行った。ここは僕としてもポジティヴに考えなければ。こんなことでもなかったら、宮殿の僕の部屋で、何もしないとはいえ一夜を共にすることなんてできなかったのだから。
バスルームにも聞こえるように、ピアノを弾く。そして僕もお風呂に入ったあと、一緒にベッドに入る。
「ゴメンな、深雪に怖い思いをさせて。もう大丈夫だから」
そして優しく髪を撫でる。
「謝らなくていいよ。痕も残らないって言ってくださったから。・・・迎えに来てくれたとき、希がおとぎ話の王子様みたいに見えたよ」
ありがとう、こんな僕のことをそんな風に思ってくれて。・・・二度とこんな思いはさせたくない。
そして彼女を優しく抱きしめる。