「今日は妃殿下とご一緒ではないのですか?」
「新婚旅行が待ち遠しいですね」
と、どこに行ってもこのような声をかけられる。だから~、僕はいつも舞と一緒にいるわけではありませんし、年末年始の新婚旅行は言われなくても楽しみにしています、はい、とイチイチ内心で突っ込むのも疲れる。
でも彼女のことばかりも考えてはいられない。今日は他国でテロが起こり、多くの死傷者が出ている。国内でも、某地方公共団体で不正が行われていたことが発覚した。そして僕は否応なく現実世界に引き戻されたのである。
「お帰りなさい」
「・・・ただいま」
仕事が終わって部屋に帰ってくると舞が明るく出迎えてくれたが、僕の気持ちはどんよりとしていた。
「大丈夫?・・・じゃあなさそうね」
「ううん、大丈夫。ここ数日幸せすぎたから、なかなかいつものペースに戻れなくてね。でもしばらくすれば落ち着くから、いつも通りに接してくれればいいよ。・・・何か、甘いデザートはある?」
「あ、冷蔵庫に頂き物があるから、・・・待ってて」
ネクタイを解きながらソファーに腰を下ろして、ためいきをつく僕。
「大丈夫ですか?殿下。・・・朝霧さんに来ていただきましょうか?」
ううん、いいよ。後は舞と話をすることにしようと思って、竹内には下がってもらう。・・・別にそこまで深刻な状況ではないけれど、このくらいのことでこんなに凹んでしまったことがショックだ。
「貴くん、もうすぐ用意できるけど、うがいと手洗いだけはきちんとして。弱っているとウィルスにつけ込まれやすくなるから」
は~い。これではまるで子どものようだ。そして手を洗っていると、ついでに身体もすっきりさせたくなって、シャワーも浴びることにした。・・・ああ、なんて行き当たりばったりな行動なんだ。
「はい、お疲れさま。・・・私もニュースでいろいろ見たわ、大変だったでしょう。でもきちんと仕事をこなしてきたんだから、今は自分の時間をゆっくり味わって」
うん、ありがとう。今の間にデザートにはフルーツも添えてくれたみたいで、優雅なひとときが味わえた。・・・舞がいてくれてよかった。
「おいしいよ、ありがとう。・・・大分気分が落ち着いてきた。・・・キスしてもいい?」
「貴くんが私に甘えてくるなんて珍しい・・・いいわよ」
そして僕が彼女にすがりついていると、まだ濡れている髪をタオルで拭いてくれる。・・・気持ちいい。心が安らぐ。