昨日は、彼の部活が終わってから学食に行き・・・他の部員たちも、テーブルこそ違うけれど同じ学食にいて楽しく会話をしているようだ、が、2人で食事をした。それにしても、本格的な料理が出てきたので、思わず面食らってしまった。しかもこの男、話しているのにいつの間にか静かに美しく食べていて、聞き役になっていた僕のほうが、彼のペースよりも遅れてしまったりした。
・・・が、彼はそんな僕には構わない様子で、穏やかに言葉を投げかけてくる。
「どうしてクリウスを見に来る気になったんだい?」
・・・そんなこと分かっているだろうに。
「そっちこそ、どうして僕なんかに興味を持ったわけ?」
「それは、何かにつけて縁があるみたいだったからだよ。成績は優秀だし、理想を実現させるための戦略をきちんと練っているし、これは将来的に一緒に仕事をすることになるだろうなって。だったら、早めにお互いのことを知っておくのも悪くないよね」
同意を求めるような言い方だね。僕があまり好意を持っていないことも知った上でのことか。
「でも僕はまだ君と同じ舞台に立つことはできない。それは不公平じゃないか。僕に何をさせたいんだ」
言うと彼は、楽しそうに身を乗り出してきた。
「今しかできないことだってあるよ。とりあえず来年、高校生を集めた討論会を開こうと思っているんだ。例の論文コンクールの優秀作品を書いた人たちに集まってもらうとちょうどいいな、と考えていたところなんだ。だから君も参加してくれるよね」
そうきたか。でも願ったり叶ったりだ。そういう場でなら、沢渡のことを堂々と攻撃できる。
「でも、より面白くするためには、僕たちが近づきすぎないほうがいいんじゃないか?それとも、僕のことを味方に引き入れようとしているわけ?」
沢渡の表情が固まった。・・・思い通りには行かないんだよ。
「徹底交戦の構えなんだね。別に理に適っているのならそれはそれで構わないんだけど、今の君は、僕の言葉に耳を傾けず、反射的にすべてを否定しようとしているようにしか見えないよ。それは残念だよね」
今度は僕のほうが固まる番だった。彼は実に冷静に、感情をはさむことなく客観的に言い放った。そこには血が通っている感じがしなくて・・・いたたまれなくなった僕は、そのまま学食を後にしたのだった。そして僕が荷物をまとめて立ち去ろうとする間も、彼は食事の手を休めようとはせず、初めから僕のことなど相手にしていなかったような素振りを見せ・・・。
思い出すだけでぞっとする。彼の無表情が、こんなにも背筋を寒くするなんて。・・・僕の入宮は流れてしまうだろうか。高校生討論会にも呼ばれないのか。
・・・謝っておいたほうがいいだろうか。