11/26 (土) 11:30 クリウス訪問

沢渡が家まで迎えに来てくれて、僕は王宮の車に乗り込んだ。部活のために学校に行くだけだからラフな格好で来るように、と言うだけあって、彼もカジュアルな出で立ちで、こうして見てみると、彼も高校生なのだということを実感する。

「大体は僕が案内するけど、部活に出なければならないから、あとは部活を見学するなり、側近の加藤にいろいろ聞くなり、好きにしてくれていいよ。・・・あと、敬語はやめようよ。同い年なんだし」

沢渡としても公私の区別をつけているわけか・・・。そうだ、政府の高官なのに、警護の人がついていない。車は側近の加藤さんが運転され、助手席には朝霧くん。前後をガードしている車がいるというわけでもなさそうだ。・・・ただし車自体は、銃撃戦にも耐えられそうな作りだが。

クリウスは予想以上に素晴らしい設備が整い、学校とは思えない世界だった。しかしそれ以上に驚いたのは、すれ違う生徒たちが皆彼に向かって挨拶をしたことだ。それも僕と話をしているのを邪魔しないように、軽く手を挙げたり、会釈をしたりするだけ。そしてそれに彼も応じていく。

「正直に言うと、これは僕が財務長官に就任してからだよ。それまで僕は見向きもされなかったし、僕自身、あまり人付き合いが得意だったとは言えないし。でもいい習慣だよね、止めさせる理由がない」

それはそうだ。挨拶されて気分が悪くなるはずがない。

校内を一通り案内してもらった後、僕は部室の片隅で部活を見学しながら、加藤さんにあれこれ質問していた。

「結城さんが僕のことを気にされているというのは、本当なのですか?」

言うと、加藤さんはフッと微笑まれた。・・・今のは何?

「そうですね。実は今日も会いたがっていらっしゃいましたよ。いつも沢渡さんからの又聞きなので、直接ご自分の目で確かめられたいみたいです」

・・・沢渡が僕のことを話しているというわけか。

「それで何を確かめられたいのでしょうか」

「申し訳ありません、そこまでは分かりかねます・・・が、私もお会いしたかったですよ。早川さんがもし入宮されれば、沢渡さんにとっては初めての同い年の入宮者になられるわけですから、どのように接していかれるのかとか、単純に、いつも沢渡さんが気になさっているので、どんな方なのかとか、私の後輩でもあるわけですから、懐かしい気持ちを持っていたりとか、で興味は尽きません」

やはり、入宮はほぼ確実というわけか。

「それで、沢渡くんと僕とで、一番違うところはどこだと思われましたか?」

「まだお会いしてから数時間しか経っていませんので何とも申し上げられませんが、雰囲気は似ていらっしゃいます。ですが、いいライバルになられるかどうかは、これからのことですよね」

・・・沢渡は、彼女だという女の子と楽しそうに話をしていた。・・・そんな、余裕のある態度が許せない。

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