12/3 (土) 19:30 栄養士の仕事

結城さんと沢渡長官は、土曜の夜によく一緒に食事をされている。

王宮には栄養士が数多くいて、高官の方々の食生活には常に気を配っている。沢渡長官はお若いのでやはり肉がお好きだが、それほどお嫌いな物はなく、大体何でも召し上がる。ただ、仕事が忙しくなるとすぐに食事が二の次になるご様子なので、注意が必要だ。この辺りは健康面を心配されるドクターや、体形を気にされるデザイナーやカメラマン、美容面を気にされるヘアメイクの方々からの注文が多いので、忙しいときは片手でもつまめる物にしたり、甘いデザートを用意したり、また晩餐会が続いたときには逆にヘルシーな物にしたり、とあれこれ工夫を凝らす。

今日は、体が温まる物を召し上がりたいとのリクエストを、加藤さん経由でいただいたので、煮込み料理を中心としたメニューをシェフにオーダーした。基本的に、高官の方々のメニューの詳細は、ご希望を伺った後にこちらで決めさせていただくことになっているので、ラウンジにメニュー表は存在しない。でも私はすでに2年ほど沢渡長官を担当させていただいているので、好みはよく存じ上げている。

まずはバラエティ豊かなメニューをお好みになる。例えば、好きな物なら毎日食べても飽きないという方が王宮にはチラホラいらっしゃるが、沢渡長官はその逆でワンパターンな料理がお嫌い。素材や調理法を大幅に変えないと、料理に興味を示してくださらなくなる。

「失礼いたします。本日のメインディッシュでございます」

「おいしそうですね。」

案の定、沢渡長官は軽く会釈をしてくださった後は、結城さんとの会話に熱中されている。あくまでも食事は脇役といった感じで、その場の雰囲気を楽しまれるのがお好きなよう。それを裏付けるのが、一人で食事をなさるのがお好きではないということ。自室では加藤さんを同席させていらっしゃると伺っている。

「失礼いたします。本日のデザートでございます」

いいのだ。料理が主役にはなれなくても、長官はいつも残さず綺麗にお召し上がりになる。それは私のことを信頼してくださっている証拠だ。だから、無駄口は叩かず、会話の邪魔をしないようにさっと引き下がる。

お二人の話は更に盛り上がりを見せている。今は仕事の話ではなく、長官の彼女の話らしいが、聞き耳を立ててはいけない。私はあくまでも風景の一部なのだから。

「これ、おいしいよ。深雪に食べさせてあげたい」

普段の長官を拝見していると、一般の女子高生の彼氏になられるなどまるで想像できないが、どうやら普通に元気な男子高校生でいらっしゃるようで安心した。いやいや、実は王宮では、長官に内緒で、あるプロジェクトが進められている。深雪さんの好みを把握しておくことも大事な仕事の一部だ。

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