スキャンダルは命取りになると言われて、成り行き上、美智のことは内緒にしている。今日も実は俺の誕生日だということでいくつか誘いは受けたのだけど、何とか誤魔化して・・・バレバレじゃないかと思ったけど。でもやっぱり祝ってもらいたいのは一人だけだから。
最近仕事が忙しくてかなりキャンセルしてしまっていたから、お詫びの意味も込めて絶対に譲れなかった。慣れないことが続き、ひどく疲れているので、少しでも落ち着ける空気を求めていた。
通い慣れた彼女の家に行くと、手作りだというケーキが用意されていた。性格はちょっとキツイけど(言うと怒られる)家庭的なところがあるので、この辺りはお手のもの。テーブルを挟んで定位置に座り周囲を見渡すと、小物の一つに至るまで何も変わっていなくて、心が和んだ。もちろん彼女も・・・と言いたいところだったけど、どこか様子が違う。
「随分痩せたね。ホントに大丈夫なの?」
今にも涙が零れ落ちそうなくらい、その瞳は潤んでいた。
「役作りだよ。節制しているから」
「身体は大丈夫なの?」
まったく、母親みたいなことを聞いてくるんだから・・・。
「心配要らないって。沢渡なんて今の俺より体重は軽いんだから」
そう?と、沢渡の名前を出したからだろう、少し安堵した様子がうかがえた。もちろんすでに沢渡からはお祝いメールをもらっていて、来週一緒に食事をする約束をしている。それはさておき、
「早く乾杯しようよ。祝ってくれるんだろ?」
もちろん、と二人でグラスを掲げて、次に重ね合わせた。・・・彼女の白い喉が上下するところを見るのがたまらなく好きだ。セクシーで、でも無防備で、・・・噛みつきたくなったり・・・する。
グラスを置くと彼女は曖昧に微笑んだ。
「祐輔は・・・」
「美智は・・・」
ずっと言葉を探していたんだろう、でもやっと言いかけた言葉は俺のそれと重なってしまい、なんだか気まずい雰囲気になってしまった。
「何から話していいか、分からないね」
それは言えてる。落ち着ける空気を求めに来たのに・・・ここだけはずっと変わらせたくない。じゃないと帰る場所がなくなってしまうじゃないか。
「前はこんなことなかったのにな。・・・美智」
俺は椅子ごと彼女の隣に移動して、横から抱きしめた。
「俺のせいだよな、ゴメンな」
「そうよ。・・・責任取りなさいよ」
いつも強気な彼女がよく吐くセリフ・・・なのに、今日は声が震えていた。こんなにさせてしまったんだ・・・。でもそれはそれで彼女の新たな面を見れた喜びに変わる。意外としおらしいじゃない。かわいげがあるじゃない。もっと愛おしく思えるじゃない・・・。
「どこにも行かないって約束して」
「・・・愛されてる自信、・・・なくなってきたんだ?」
「仕事だって言われたら、何も言えなくなる」
・・・確かに、芸能界は綺麗な人が多いけど、浮気なんてしないよ。まだそれだけの余裕はないから。
「俺のこと信じてないの?」
「・・・信じさせてよ」
じゃあ、信じてないってことだ。
「そういうこと言うと、俺、何するか分かんないよ。役作りのために危ないビデオばっかり見てるんだから」
猟奇殺人とか、精神病をテーマにしている作品とか。
「仕事は仕事でしょ。沢渡くんにも気をつけるようにって言われてたじゃない」
「アイツに口出しされる筋合いはない・・・」
そのまま彼女を黙らせた。
・・・結構いつものペースに戻ってきたんじゃないか?やっぱり張り合いがないと楽しくないかもしれない。触れ合えばすぐに感覚を取り戻せる。心より身体のほうが正直だから。