4/4 (土) 19:00 蕾

宮殿にある高官ラウンジで、初めて結城と待ち合わせをした。

ホーンスタッドの宮殿は、二つの山にまたがって建設されたガラス張りの施設である。そこには、政治を担当する政官と、音楽家になるためにレッスンを受けながら、公式行事などで演奏する楽士、そして政官や楽士の生活をサポートする仕官など数多くの人々が生活しているため、建物と呼ぶよりは町と呼んだほうがふさわしい雰囲気を持っている。議事堂などの施設はもちろん、文化、商業施設も併設されている。

宮殿の住人は、左耳にICチップが埋め込まれたカーフピアスをつけている。そして政官か楽士か、また政官はランクにより、立ち入り区画が決められており、すべてのドアはICチップの認証により開閉するようになっている。僕の場合は、行きがかり上、殿下や結城と行動を共にすることがあり、これまでも、同伴であれば高官専用区画に立ち入ることが出来たが、これからは僕一人でも立ち入ることが出来るようになった。そう思うと、見慣れた景色も違って見えてくるから不思議なものだ。

「待たせたな」

スーツから私服に着替えた結城が、向かい側に腰掛ける。結城は仕事とプライベートをはっきり分けたいタイプらしく、執務室以外で僕に会うときは、基本的にカジュアルな服装である。とはいえ、昔ラグビーをやっていたとかで、190センチの長身に加え、筋肉質な体格と精悍な顔つきを持ち合わせているので、初めて会ったときは恐怖を感じずにはいられなかった。

「ううん。長官から出された宿題を、あれこれ考えていたから」

「そうか。中川長官の下での初仕事はどうだった?」

「今までと特に変わりないよ。新入宮者に、何だコイツ?って顔をされたくらい」

過去二年、すでに現場での仕事に携わらせていただいているので、周りはもう慣れてきている。もちろん最初は風当たりが強かったが、だんだん対応が変わってきたのは、僕のことを認めてくれるようになってきたということだと思う。

料理が運ばれてきて、僕たちは乾杯した。

「かく言うお前も、学校では新参者の立場なんだから、最初のうちは様子見の姿勢を崩さないほうがいいだろう。第一印象は、変わりにくいと聞く。ただでさえ、お前はその容姿で人目を惹くのだから、周囲を刺激するような態度は取るなよ」

うーん。これまで同世代の人たちとの交流をしたことがないので、今は何とも言えない。

「どんな反応をされるのかな?」

「・・・断るときは、出来るだけ相手を傷つけないようにしろよ」

え?何の話!?・・・見ると、結城はニヤニヤと笑っている。

「さぞかしモテるんだろうな。こんな男がクラスにいたら、辛いわ」

ええー!!!

「そ、そうなのかな?」

「ま、その辺りも含めて、大いに社会勉強して来いよ」

・・・はい。言われて気づいたけれど、僕は恋をしたことがない。ずっと宮殿にいたし、課題をこなすことで精一杯だったし、女性に出会う機会もほぼないに等しかったし・・・。だからもちろん、告白されたこともなかったわけで。

「別に恋愛は禁止してないけど、仕事が最優先だからな。やっとお前が花開くときが来たんだ。どんな花を咲かせてくれるのか楽しみにしているよ」

そうだね。陛下や殿下、結城の期待に添えるよう頑張らないと。今はまだ恋愛に浮かれている場合ではない。

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