「ちょっと一息入れようか。相談って何?」
今日も沢渡から、あれこれと試験に出やすそうなポイントを教わっている。明日は暗記科目が多いからまだ楽かな?
そういうわけで、僕は考えていることを話した。沢渡はこういうとき、いつも聞き役に徹してくれる。相槌の打ち方がうまくて、スラスラと言葉が出て来るんだ。
「そうか、難しいところではあるな。まだ先生のレッスン受けているんだっけ?」
「うん、週に一回だけどね。時々演奏していて迷うこともあるし、それは必要な時間だと思う」
「でも楽士って遅かれ早かれ卒業するわけじゃない?ただ朝霧の場合は、史上最年少とか前代未聞っていう言葉が付きまとうから迷ってるんだろ?経験者として言わせてもらうと、それは関係ないね、逆に若さって武器になると思うんだ。特にお前が進もうとしている音楽の世界では、全然珍しいことじゃない」
それは言えてる。僕は楽士だからってことを基準に考えていたけど、世間では普通だ。もっと年下の子もたくさんいる。
「でも環境は整えてから出て行ったほうがいいと思うぞ。コンクールの実績もあるし王宮もバックについてくれているのに、何も身一つで外の世界に出ることはない。その辺は先輩方とよく相談したほうがいいんじゃないかな」
「そうだよね、生活とかもかかってくるしね…」
リサイタルをやって少しは収入もあったけど、ここが沢渡とは大違いだよな。コイツはもう完全に独立しているからね、しかもリッチだし。
「でも俺は個人的な意見として、是非作曲の道へ進んで欲しいな。それでお前も楽しさを見出したのなら尚更」
「後は時期をよく考えろってことだね」
その通り、と言わんばかりに大きく頷く。とても同い年とは思えないこの存在感。僕といる時にも俺なんて言っちゃって、最初は慣れなかったけど何だか男らしさに磨きがかかってきた気がする。一緒にいるのが嫌になるくらいだ。でもそれとこれとは別に、一番信頼している沢渡に納得してもらえたから、僕は迷わず踏み出せそうな気がする。そうだ、まずは先生に相談しなきゃ、そこからだよね。
「お前の演奏をすぐ聴けないとなると寂しいな。CDは便利だけど、やっぱり生がいいもん」
「僕がここを出たら、セカンドハウスに居候させてもらおうかな?その代わりいつでも弾いてあげるから」
「でもその前に彼女を紹介しろよ。この間賞を獲ってたじゃないか、インターネットで見たけど綺麗だった。来る予定ないの?」
「まったく白々しいな、知ってたんだろ、どうせ」
「いや、本当に知らなかったよ。へえ~来るんだ、ダブルデートしよっか」
はいはい、会わせるつもりだったけど。早く来ないかな…まだ二週間あるし。
「君のことは聞くまでもないよね。それどころか、精神安定剤的な深雪ちゃんに会うことは、王宮公認なわけ?」
「…否定はしない。…でも、そんなに疲れているように見える?」
「…見る人が見ると分かるレベルかな?」
「そうか…。あ、なら、共同で部屋を借りるとかどう?家賃を半分出すから、俺の部屋も作って」
え?深雪ちゃんと会うための場所は、提供してもらったばかりなのに?
「俺も、時々は息抜きしたいことがあって…。それに、朝霧とも、今はここや学校で会えるからいいけど、卒業したらそうもいかないことを考えると、ちょっと寂しいなって思って」
僕のことをそんな風に思っていてくれるなんて、嬉しいよ。
「分かった。前向きに考えるよ。いい親友を持てて嬉しいよ」
独立か。そのためには、CDの売り上げも大きく関係してくるね。いい作品に仕上げないと。