12/23 (金) 1:30 不安の矛先

「美しいわね。ただただ見とれてしまうわ・・・」

上映会の後、僕たちは第2ラウンドと称して、またビデオドラマを見ていた。舞からのリクエストで、後ろから抱きかかえる形で・・・。

画面の中の沢渡くんは、本人であってそうではない。現に当の沢渡くんは、冷静に自分の姿を見ていた。その様子は自分の演技を客観的に見る役者そのもので、ともすれば、深雪ちゃんともう一度好きにさせようとする言動がまるっきり創作であるように、見えなくもないほどだ。

「深雪ちゃんも綺麗になったよね。おかげで沢渡くんにも男の色気が出てきた」

随分小さいときから彼のことを知っている僕としては、身長を抜かれたとき以上に驚きを感じている。いつも僕のことを慕ってついてきてくれた沢渡くんが、今では愛する女性を守る大人の男になった。・・・以前より強く、優しく、親しみやすくなったのは、深雪ちゃんのおかげだ。

僕が教えてあげられることは、もうないのかな・・・。

「貴くん、ずっと様子がおかしいわよね。妙に感傷的になって沈み込んでいるし・・・、もうすぐ新婚旅行だというのに、楽しみじゃないの?」

うっかり舞のことをきつく抱きしめていたせいか・・・、それとも最初からずっと僕の変化に気づいていたのか・・・。

「やることをきちんと片付けてからでないと、旅行の気分にはなれないよ」

と、とりあえずいつもの僕が言いそうなセリフを言ったあとで、でも、本心を言わないままにしておくのは、彼女にとっても僕にとってもよくないだろうと思い直して、先日の夢の内容と、それからあった出来事について話した。

「今まではこんなことなかったのに、どうしてこんなに不安になるのだろう?舞を失うかもしれないことに対してなのか、自分が死ぬかもしれないことに対してなのか、それとも周りに対する心配があるからなのか、分からないよ」

何かにつけあの夢のシーンがフラッシュバックして、忘れようにも忘れることができない。

「どれもあるからじゃないかな?」

え?

「貴くんは周りの人が不安がっていても平気みたいだけど、自分のことになると耐えきれなくなるみたいよね。・・・でも私も、もしその夢を見たら同じ状態になりそう。一人で悩むことなかったのに、どうして話してくれなかったのよ」

「それは、舞を不安にさせないようにと・・・」

「もう、不安になるかどうかは私が決める。勝手に決めつけないでよ。・・・貴くんがそうやって沈み込んでいるほうが、不安になる」

・・・そうか、それもそうだよね。僕と結婚までしてくれる女性なんだから、一般論で考えてはいけない。

「貴くんと一緒なら、怖くないよ」

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