2/28 (火) 22:30 手痛い洗礼

新生活を始めるにあたって、実家を離れ一人暮らしをすることにした。親父の力は借りない。俺一人の力で、成功したい。

しかしその引っ越しもまだ途中で、段ボール箱がゴロゴロと転がっている状況だ。それよりも、レッスン内容を反省したり、身体を鍛えたりすることを優先したい。

「食事には気をつけなさいよ」

母からメッセージが届く。でも、気をつけなさいと言われたところで、どう気をつけていいものか分からない。…とりあえず、食べればいいのだろう、とコンビニで買ってみたものの、あまりにもまずくて驚いた。それでとりあえず、レストランに行ってみたが、毎日同じところに行くわけにもいかず、かと言って自炊する暇はないし、どうしたものかと考えているところだ。

“料理って意外と簡単よ。教えに行ってあげようか?”

美智が、おかしそうに言う。

「でも今、他のことをする余裕がなくて。…食事がこんなにめんどくさいものだとは、知らなかったよ」

“もう、お坊ちゃんは困るわね”

…そう言われることは不本意だと思っていたが、実際問題として、一人では何もできない、ただのお坊ちゃんだった。この片付かない部屋には、日に日に、洗濯物やゴミが増えていく。しばらく家には戻らないから、なんて大口を叩いて出てきた手前、助けを借りることはできない。

「あの…、頼みがあるんだけど」

“何?”

「家事の仕方を、教えてくれない?」

頼れるのは、美智だけだ…。

“いいわよ。私はまだ春休みで、暇だし。…いつ行ったらいい?”

「できれば、明日にでも…」

“分かった。ご飯作りに行ってあげるね”

「ありがとう。…よろしくお願いします」

“いいのよ。この間まで受験だったのに、いきなりお仕事で大変だもんね。できるだけのことは応援するわ”

…ありがたい。美智がいてくれてよかった。でも、来てもらうにしても、この洗濯物は何とかしなくてはいけないな。足の踏み場がない。あー、役作りのことを考えたいのに、世の中は不条理なものだ。

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