希が今週は学校中心ということで、演劇部としても強化週間と題して、週末には合宿も計画している。嬉しいな、公然とお泊りできるなんて。それはまだお楽しみにとっておくにしても、一緒に昼食をとったり、今日のように一緒に下校したりと、・・・でもちょっと気になってる。最近優しすぎるんじゃないか?って。いつも優しいんだけど、それに輪をかけてと言うか・・・いいのかな、と。だから車の中で聞いてみたら、
「たまにはいいじゃないか。いつも出来るわけじゃないし、出来る時に甘えとけよ」
まあ確かに、先々週辺りは電話の一本もくれなかったし、来週はまた仕事の比重が高くなるって言っていたし、そうしたほうがいいと思う。でも、何でかな~って。
基本的に隠し事が多い人だし、聞いてみたところで、「お前は知らないほうがいいんだよ」とか「国家機密だから」と言われてしまう。結果的にそれがよかったこともあるけど、一応何を聞いてもいい権利を持っているわけだし、使ってもいいよね。
「希って、本来は喜怒哀楽が激しいタイプだよね?」
何でそんなこと聞くの?といった様子で首をかしげながらも、そうかもな、と答えた。
「そして気を許している時は、信じられないほど分かりやすいよね?」
言うと、フッと吹き出した。ほら、心当たりあるんでしょ。
「そうやってほのめかしているくせに、いざ聞くと教えてくれないなんてズルイよ。昨日もゴキゲンだったけど、今日はもっとゴキゲンじゃない。何で?いいことくらい教えてよ」
「それを聞いてどうするんだよ。一生誰にも話しちゃいけないんだぞ、守れるのか?」
一生・・・それは結構辛いね。
「でも希にだったらいいわけでしょ?」
「そうだけど・・・」
う~んと少し考えてから、絶対誰にも言うなよ、と念押しをして、耳元で囁いた。
「だって、深雪と一緒にいることが出来て、本当に嬉しいんだもん」
あ・・・。顔がぽわーっと熱くなるのを感じる。・・・なんてかわいい言い方をするの?猫みたいに、ゴロニャンって。・・・でもそんなことならこんなに改まらなくてもいいじゃない。・・・誤魔化されたんだ!!!
「それだけじゃないでしょ。隠し事はしないって約束なのに、ウソツキ!」
・・・そんな、怒るなよ。決まり悪そうに、妙に居住まいを正しちゃったりして。
「ウソなんかついてないよ、ちょっと省略しただけ。・・・超ムカツク男が自国に帰ったおかげで、深雪と一緒にいることが出来る。それが本当に嬉しいんだ」
え?希の口から「超ムカツク」なんて言葉が出るなんて・・・、それにげっそりした顔・・・。よっぽど頭に来たに違いない。国に帰った男の人・・・あ!今日の朝お帰りになったヘンケル殿下!
「名前は出すな。また思い出すだろ」
「そんなに?」
うん、と静かに頷いた。聞くと、キレて仕官にヤツ当たりまでしてしまったらしい。
「深雪に愚痴ってしまいそうで、電話しなかったんだ」
そうなんだ~、これですべて納得。多分今だから話してくれたのであって、殿下がホーンスタッドにいらっしゃる間は口が裂けても言えなかったのだろう。我慢することは最初のうちはわりと平気だったりする。でもかなりたまってから一度でも口に出してしまうと、もう元のようには我慢できなくなってしまう・・・そんな経験私にもあるから。プライベートならともかく、仕事となると更に話は別だよね。
「でもずっと隠したままにしないで。変に疑って誤解しちゃうかもしれないよ」
「・・・俺が思っていた以上に、深雪は鋭いんだな。ゴメン。・・・ますます優しくしたくなる」
あの・・・嬉しいんですけど、いつもの威厳はどこへやら・・・。まあ、いいか。今週はラブラブモード全開でも。
あ・・・またメールが来たよ。