1/10 (火) 14:00 突然のニュース

学校ではそろそろ新入生歓迎会の企画をそろえなくてはいけなくて、会長の権限で今年も演劇部の公演、そして朝霧にバイオリンを弾いてもらおうかなと思っているのだけど…。

「沢渡くん」

誰かが呼んでる、今は授業中だろ…。

「沢渡くん、ちょっといいかしら?」

あっ、はい、と立ち上がると目の前に外国語担当の先生が立っていた。授業中に呼ぶのは普通先生だよな、確かに。

「あら、ごめんなさい。会話の相手をしてもらおうと思ったんだけど、お取り込み中なら別にいいのよ」

「いや、今のはぼーっとしてただけなんで大丈夫ですよ」

隣から朝霧が先に答えて、クラスは爆笑する。普通の人からは考え事をしている…と見られるらしいが、朝霧にはバレている。…人前で言わなくてもいいだろ、まったく。

いいですよ、と先生と一緒に教壇に立ち教科書を読んでいく。最近こういうこと増えたよな…、外国語ではほとんど毎回、他の教科では先生が出張でいない時など授業を進めて欲しいと言われたりして…。出席日数が相当足りないから拒むことなんて出来ないわけだけど、まあ結構面白いし、クラスメートも気軽に質問できるからと喜んでいる。…けど学校側の策略にはめられているだけかも、という気がしないでもない。

僕が突然音読をやめたので、先生やクラスメートがこっちを見る。世間体があるから普段は携帯電話でやり取りをするのだけど、ピアスに飛び込んできたのは第一級緊急通信。…ウソだ!誤報じゃないのか!!

「すみません、早退します。朝霧、僕の荷物を持って帰ってきて」

持っていた教科書を投げると、彼は、理由が分からないといった様子で曖昧に頷いた。まだ公表できないのだろう、彼には連絡が届いていないようだ。

失礼します。

慌てて教室を飛び出した。…その間体感3秒。ダッシュで玄関に向かうと、加藤が車のドアを開けて待っていた。

「嘘だよね、嘘だと言ってよ」

「まだ現地では情報が交錯しているようですが、連絡が取れないことだけは確かです」

そんな…、あんまりじゃないか。信じられない、信じたくない…。

“響両殿下が搭乗されていた飛行機が墜落した模様。すぐにお戻りください…”

宮殿に戻ると、人が激しく行き交っていた。迷わず会議場に赴くと、沈痛な面持ちの陛下と結城が、パソコンの画面を食い入るように見つめていた。

「沢渡くん…、心の準備をしてほしい。雪深い山中に墜落して、捜索は困難を極めているそうだ」

心の準備…って僕が皇太子に即位するってこと?まだ教えていただきたいこともたくさんあるのに…それより何より、僕を弟のようにかわいがってくださって、今日の朝も“お土産楽しみにしていてね”とメールが届いたばかりだったのに…、大好きな殿下がいなくなってしまうなんて信じられない。いや、まだ確かな情報が入っていないから、僕は信じている。プラス志向でとおっしゃったのは殿下なんだから。

そんなとき、テレビにニュース速報が流れた。

“×××発○○○行+++型航空機が、・・・山中に墜落炎上。乗客乗員は絶望的”

「陛下、そろそろ会見のご用意をお願いいたします」

「分かった。その前に沢渡くん、君の口から返事を聞きたい。最悪の事態になった場合、沢渡くんには皇太子に即位してもらいたい。予定より随分早いのは分かるが、私は申し分ないと思っているし、それは誰もが認めるところでもあろう。…引き受けてくれるね」

僕は次期皇太子、順番からいくと当然そうなる。あまりに突然のことだけど、引き受けるしかない。そのための、次期皇太子なのだし。

「お受けいたします。至らぬところが多々あるとは思いますが、精一杯務めさせていただく所存でございます。どうかよろしくお願いいたします」

立ち上がって90度頭を下げた。

「こちらこそよろしく、沢渡くん」

陛下が、ポンポンと僕の肩を叩いて出て行かれた。

「頭上げろよ。…お前なら出来る、頼んだぞ」

結城が僕の肩を起こしてぎゅっと抱きしめる。分かってる、本当は信じたくないけど、国民から国家を任されている身であり、一個人より仕事を優先させなくてはいけない。辛いのは、僕だけじゃない。しっかりしなければ。

「うん、ありがとう。…早く行って」

いつものごとく軽いキスをして結城は出て行った。少し一人で考えたくて、僕はそのままテレビの前に座っていた。

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