1/11 (水) 14:00 手紙

訃報を受けて、結城が現地に飛んだ。僕としてはまだ気持ちの整理がつかないのに、皇太子に即位するための準備に追われて、とても不安だ。なのに結城がいない …殿下もいらっしゃらない。

「沢渡さん、大丈夫ですか?顔色がよくありませんよ」

加藤に言われて、温かいココアを口にする。冷静でなどいられるわけがない。でも皇太子に即位すると返事をした以上、僕は上に立つ立場の人間として、冷静かつ迅速な対応を求められる。

「大丈夫。ここでしっかりしないとね」

「そうですよ。私も信じたくなどありませんが、生存の可能性はほとんどないそうです。それでなのですが、ヘンケル殿下がお見えになっています。何かお話があるとかで」

え? …殿下のことを何かご存じなのだろうか。

そして僕の執務室にいらしたヘンケル殿下は、沈痛な面持ちで、一枚の封筒を僕に差し出した。

“実はTakaから、何かあったら投函してほしいと渡されていたのだけど、それでは心許なくて、直接持って来てしまったよ”

え?殿下からの手紙?…ドキドキしながら封筒を開くと、見慣れた殿下の文字があった。

「沢渡くんならきっとできる。任せたよ。 響貴久」

何ですか、これ?

…伺うと、殿下はご自分の死期を悟っていらしたとかで、周囲の人々には相談なさっていたとのこと。

“お世話になった人たちには会うことができて、挨拶はすでに済ませたと言っていた。もちろん結城も、何度となく相談にのっていたみたいだよ。でも、Sawaには心配をかけたくなくて話せなかったことが心残りだったから、ということで、この手紙を預かったんだ”

…そんな。僕にはそんな様子は少しもお見せにならなかった。僕にはまだ、教えていただきたいことが山ほどある。それが一方的に、こんな別れ方になるなんて…。

“Takaは、Sawaのことは全く心配していなかったよ。Sawaが後任だから、安心していると。教えられるだけのことは全部教えたから、後は経験を積むだけだと言っていた。Sawa、Takaの分も頑張って生きてほしい。そして、心配している国民を安心させてあげてほしい”

ゴクリ。…僕は涙を飲み込んだ。ただでさえ、国民は殿下のことで不安になっているのに、僕のことでまで心配をかけてはいけない。

“分かりました。陛下にお願いして、会見を開こうと思います”

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