あれこれ考えていたけど、会ってしまえばそんなものは一瞬のうちに消え去ってしまった。深雪の笑顔一つだけで、何もかも許せて救われた気分になってしまうのだから、不思議なものだ。
「やっぱり希じゃなきゃ、ダメ。私、どんなことがあっても待ってることに決めたから」
その、やっぱり、っていうの、俺的に結構傷つくんだけど・・・。他の男と比べたから、その言葉が出てくるわけだろ?でも、何も聞かないことにした。
遠足の次の日、俺はイライラしていたけど、変に疑ったりはしないで、ただ話していただけだ。電話もゆっくりしていなかったから、話したかっただけだよ。・・・ちょっと強がってるけど。深雪や吉岡に対して怒っていたというよりは、悲しかったんだ。・・・上手く言葉に出来ないんだけど。
「俺も深雪じゃなきゃダメなんだ。・・・単なるわがままかもしれないけど、どこにも行かないでくれ」
「もう、どこにも行かないよ。ずっとついて行くから」
だから、もう、って言わないでくれよ。また落ち込むじゃないか。・・・俺の反応の鈍さに、顔色をうかがうように不安げに覗き込んだ。
「希・・・?私、言葉が足りない?」
「うん、もっと」
「希のことが大好きだよ」
「もっと」
「・・・世界で一番愛してる」
「もっと、もっと」
「え~、恥ずかしいよ」
「今更恥ずかしがる仲でもないじゃないか」
言うと顔を赤らめたので、腕の力を緩めた。
「いやだって。ごめんなさい・・・やっぱり怒ってるんだよね。本当のことを言うと、私、ちょっと気持ちが揺らいじゃったの。だって寂しかったんだもん。でも吉岡くんとは何にもないよ、ただ話をしただけ。それだけでもよく分かったの、希じゃなきゃダメなんだって。・・・希が私のことをどんなに大切に思ってくれていたのか、知らなかったわけじゃないけど、私・・・」
「分かったよ、もういいから」
改めて、俺から見ればかなり小柄で華奢なその身体を抱きしめ、肩口に頬を埋めた。今度は嬉しくて泣いてしまいそうになるだろ・・・。
「もうちょっと、寝かせて」
出来ればずっとこうしてまどろんでいたい。多分深雪が思うよりも、ずっと深く愛してしまっているんだよ。もう一人でなんかいられない。
・・・どうしてだろう。仕事に関しては自信を持っているのに、深雪のことを思うときは、時々自分でも情けないくらいに不安に苛まれることがある。今はこんなに幸せでも、明日はそうとは限らない・・・と思ってしまうことがある。結城や、加藤や朝霧に対しては、絶対的な確証があるのに・・・。
深雪が髪をそっとなでてくれる・・・。このまま時が止まればいいのに・・・。